膝の痛みを可動域の途中で評価する方法:出る区間・続く区間を分けて記録する
膝の痛みを評価するとき、最大屈曲角度だけを記録しても、次に何を確かめるかは決まりません。大切なのは、痛みが可動域のどこで出始め、どの区間で続き、どこで変わるかを記録することです。
可動域の途中だけで出る痛みと、ある角度から終末域まで続く痛みでは、検討する仮説が変わります。ただし、痛みの区間だけで原因を決めることはできません。区間はあくまで仮説の入口です。同じ動作を同じ条件で再現し、介入前後の反応を比べて、仮説を残すか捨てるかを判断します。
この記事では、臨床で使える記録の取り方を、膝屈曲の例で整理します。対象は、膝の評価に迷いやすい理学療法士・柔道整復師・鍼灸師・整体師です。
膝痛評価で最初に固定するのは、最大角度より「痛みの出方」
関節可動域は、関節が動く範囲を角度で表す指標です。標準的な測定法は、基本軸・移動軸・測定肢位をそろえ、角度計で記録します。日本理学療法学会連合も、3医学会が公表した測定法を標準的評価法として案内しています(出典3)。
角度は必要です。しかし、疼痛の臨床では角度だけでは足りません。同じ「膝屈曲に痛みがある」でも、次のような違いがあるからです。
- 屈曲の途中で痛みが出るが、さらに曲げると弱くなる
- ある角度までは痛みがなく、そこから終末域まで続く
- 動かし始めから終末域まで続く
- 自動運動では出るが、他動運動では同じように出ない
- 荷重位では出るが、非荷重位では再現しにくい
この違いを残さずに「屈曲時痛あり」とだけ書くと、再評価で同じ現象を見ているか判断できません。最大角度が同じでも、痛みの出始めが変わっている可能性があります。反対に、最大角度が広がっても、痛みの区間は変わっていないかもしれません。
最初に固定したいのは、次の項目です。
| 記録項目 | 書き方の例 | 目的 |
|---|---|---|
| 動作 | 背臥位での自動膝屈曲 | 再評価の条件をそろえる |
| 痛みの部位 | 膝前面、膝蓋骨内側縁付近 | 対象者の指差しで確認する |
| 出始め | 屈曲途中から | 痛みが始まる位置を残す |
| 続く区間 | 途中の狭い区間のみ | 一過性か持続性かを分ける |
| 終わり方 | さらに屈曲すると弱くなる | 変化点を残す |
| 動作速度 | ゆっくり | 速度による違いを減らす |
| 荷重条件 | 非荷重位 | 再現条件を固定する |
角度計が使える環境では、出始めと終わりの角度も記録します。使えない場面では、「屈曲の前半・中盤・終盤」のように区間で残しても構いません。大事なのは、次の再評価で同じ条件を再現できることです。
「途中だけ」と「ある角度から続く」を分ける理由
藤井翔悟の膝痛の指導動画では、膝屈曲時の痛みを二つの出方に分けています(出典1)。
一つは、可動域の途中だけで痛みが出るパターンです。動画では、大腿骨と膝蓋骨が動く途中の滑りに着目し、膝蓋骨周囲の問題を検討しています。
もう一つは、ある角度までは問題がなく、それ以降で痛みが続くパターンです。こちらは、筋が一定以上伸ばされたときの反応として捉え、筋の短縮や張力の影響を検討しています。
ここで重要なのは、「途中なら膝蓋大腿関節」「終盤なら筋」と即決することではありません。動画が示しているのは、痛みの出方から次の検査候補を絞る臨床推論です。区間だけで病態や原因組織を確定する話ではありません。
可動域途中の痛みを見たときは、関節運動に伴って位置関係が変わる構造を候補に置きます。膝蓋骨周囲を検討するなら、膝蓋骨の可動性、圧痛部位、運動中の軌道、自動運動と他動運動の差などを追加します。
ある角度から終末域まで続く痛みを見たときは、その区間で伸張や圧縮が増える組織を候補に置きます。筋の影響を検討するなら、股関節や足関節の肢位を変えたときに痛みの出始めが変わるか、収縮と伸張のどちらで再現しやすいかを追加します。
つまり、痛みの区間は「答え」ではなく、次の検査を選ぶ分岐点です。
| 痛みの出方 | 最初の仮説 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 途中の限られた区間で出る | 動きの途中で位置関係が変わる構造の影響 | 膝蓋骨周囲の可動性、軌道、圧痛、自動・他動差 |
| ある角度から終末域まで続く | 伸張または圧縮が増える組織の影響 | 隣接関節の肢位、筋収縮、伸張条件による変化 |
| 全域で続く | 刺激性が高い、または条件設定が広すぎる可能性 | 負荷、速度、荷重条件を下げて再確認 |
| 日によって区間が大きく変わる | 再現条件または症状の変動要因 | 時間帯、直前の活動、腫脹、熱感、荷重量 |
この表は診断基準ではありません。検査の順番を決めるための整理表です。所見が一致しなければ、最初の仮説に固執せず別の候補へ移ります。
実務手順:評価、仮説、押圧、再評価を同じ条件で行う
小冊子『疼痛治療テンプレート』のSECTION 2では、疼痛誘発動作を「評価→押圧→再評価」の流れで整理しています(出典2)。最初に痛みが出る動作と可動域を規定し、候補部位を押圧した状態で同じ動作を行い、反応を比較する方法です。
臨床で扱うときは、反応が変わったことと、原因が確定したことを分けて考える必要があります。押圧によって運動の仕方、注意の向き、安心感、速度なども変わる可能性があるためです。ここでは、押圧で反応が変わった部位を「追加検査の優先度が上がった候補」として扱います。
手順は次のとおりです。
1. 基準動作を一つに決める
まず、痛みを安定して再現できる動作を一つ選びます。仮に膝屈曲で確認するなら、背臥位か腹臥位か、自動か他動か、荷重か非荷重かを決めます。
一度の評価で複数条件を混ぜないことが大切です。最初は背臥位の自動膝屈曲、再評価は座位の他動膝屈曲では、変化の理由を分けられません。
痛みを強く再現する必要はありません。評価に必要なのは、対象者と施術者が同じ変化点を認識できる程度の再現性です。強い痛み、急な腫脹、熱感、外傷後の荷重困難などがある場合は、徒手的な仮説検証を優先せず、適切な医療評価につなげます。
2. 出始め、続く区間、終わり方を言葉にする
対象者に「痛いですか」とだけ聞くと、返答は「はい・いいえ」で終わります。代わりに、次のように確認します。
- どの位置から出始めましたか
- そのまま続きますか、それとも途中で弱くなりますか
- 最も気になるのは、動き始め・途中・終わりのどこですか
- 痛む場所を指一本で示すと、どこですか
施術者の観察も同時に残します。痛みが出た瞬間に動作速度が変わる、股関節が外旋する、骨盤が動く、踵の軌道がずれる、といった代償です。痛みの申告と代償が始まる位置がそろうかを見ます。
3. 痛みの区間から候補を一つ選ぶ
途中だけで痛むなら、まず動きの途中で滑走や接触条件が変わる構造を候補にします。ある角度から続くなら、伸張や圧縮が増える構造を候補にします。
候補は一度に一つです。膝蓋骨周囲、大腿四頭筋、足部、股関節を同時に操作すると、何が反応に関係したか分からなくなります。
また、触れて硬い場所を先に原因と決めないようにします。硬さは所見の一つですが、基準動作との関係は別に確かめる必要があります。
4. 一条件だけ変えて再評価する
候補部位への軽い押圧、膝蓋骨の誘導、隣接関節の肢位変更など、一つの条件だけを変えます。そのうえで、同じ開始肢位、同じ速度、同じ運動方向で基準動作を繰り返します。
見るのは痛みの強さだけではありません。
- 痛みの出始めが後ろへ移ったか
- 痛む区間が狭くなったか、広くなったか
- 痛む場所が変わったか
- 代償動作が変わったか
- 最大可動域が変わったか
反応が変わらなければ、その候補の優先度を下げます。反応が変われば、同じ条件でもう一度再現できるか確認します。一度の変化だけで結論にせず、条件を戻したときに元の反応へ戻るかも見ると、仮説の確からしさを検討しやすくなります。
記録は「角度」ではなく「区間の変化」まで残す
再評価でよくある失敗は、「少し楽」「動きやすい」という感想だけで終えることです。感想は大切ですが、次回に同じ評価を再現できません。
最低限、基準動作、痛みの部位、出始め、続く区間、変更した一条件、再評価の結果を一組で残します。
| 項目 | 初回評価 | 条件変更後 |
|---|---|---|
| 基準動作 | 背臥位、自動膝屈曲、ゆっくり | 同じ |
| 痛みの部位 | 膝前面 | 膝前面 |
| 出始め | 中盤 | 終盤へ移動 |
| 続く区間 | 中盤の限られた区間 | 狭くなった |
| 変更条件 | なし | 膝蓋骨周囲へ軽い誘導 |
| 代償 | 股関節が外旋 | 外旋が小さくなった |
| 解釈 | 仮説未設定 | 膝蓋骨周囲を追加検査する |
数値を使うなら、同じ尺度を使います。ただし、痛みの点数だけに寄せないでください。痛みの点数が同じでも、出始めが遅くなったり、痛む区間が短くなったりすることがあります。
反対に、点数が下がっても、施術者が動作を誘導したため速度が落ちただけかもしれません。条件の違いを記録しておけば、「組織への操作で変わった」のか、「動作条件が変わった」のかを次に検討できます。
判定を急がないために、評価の限界と安全確認を先に置く
可動域途中の痛みは、評価の手がかりになります。しかし、それだけで原因組織や診断名は決まりません。膝の痛みは、関節、筋、腱、靱帯、半月板、神経、炎症性変化など、複数の要素が関係し得ます。既往歴、受傷機転、腫脹、熱感、荷重能力、ロッキング感、不安定感などを合わせて判断します。
とくに次のような状況では、区間評価を深める前に医療機関での評価が必要かを検討します。
- 明確な外傷後に荷重が難しい
- 急な腫脹や熱感がある
- 膝が動かなくなる感覚が繰り返される
- 安静時や夜間にも強い症状が続く
- 全身状態の変化を伴う
職種ごとの業務範囲も守ります。触診や動作観察から得た仮説を、画像所見や医学的診断の代わりにしないことが大切です。
もう一つの限界は、評価そのものが症状を変えることです。何度も終末域まで動かせば、慣れや刺激の蓄積で反応が変わります。再評価の回数を必要な範囲に絞り、動作速度と休息をそろえます。変化が小さい場合は、その場で結論を急がず、次回に同じ条件で再確認する選択もあります。
自分の評価が再現できるかを確かめる
この評価法を身につけるには、正しい答えを覚えるより、同じ現象をもう一度拾えるかを練習します。
まず、同じ対象者の同じ動作を、少し時間を置いて再評価します。最初の記録を見ずに、痛みの出始めと終わり方を書きます。後で二つの記録を比べます。
次に、同僚にも同じ基準動作を評価してもらいます。施術者同士で先に相談せず、それぞれが次の項目を書きます。
- 開始肢位
- 痛みの部位
- 痛みの出始め
- 痛みが続く区間
- 代償が始まる位置
- 次に確かめたい候補
一致しなかった項目は、観察力の差とは限りません。「ゆっくり」の速度が違う、骨盤を固定する位置が違う、痛みの場所の聞き方が違う、といった条件設定の差かもしれません。条件をそろえてもう一度行い、一致度が上がるかを見ます。
最後に、仮説と結果を分けて記録します。
- 観察:屈曲中盤の限られた区間で膝前面痛が出た
- 仮説:膝蓋骨周囲の運動に関係する可能性を検討する
- 操作:膝蓋骨周囲への誘導を加えた
- 結果:痛みの出始めが終盤へ移った
- 次の判断:誘導の方向と自動・他動差を追加で確認する
この書き分けができると、「そう見えたこと」と「そう考えたこと」が混ざりません。別の施術者も、記録を読んで同じ検証を繰り返せます。
まとめ:痛む角度ではなく、痛みの区間を次の検査につなげる
膝痛の可動域評価では、最大角度に加えて、痛みの出始め、続く区間、終わり方を記録します。
途中だけの痛みと、ある角度から終末域まで続く痛みを分けると、次に検討する構造の仮説を整理しやすくなります。ただし、区間だけで原因は決めません。基準動作を固定し、一条件だけ変え、同じ動作で再評価します。
評価の質は、珍しい検査を知っているかではなく、同じ現象を再現し、仮説と結果を分けて残せるかで変わります。
まず次の膝症例で、「屈曲時痛あり」と書く代わりに、出始め・続く区間・終わり方の三つを書いてみてください。その記録が、次に何を確かめるかを決める材料になります。
- 藤井翔悟「膝の痛み」指導動画の文字起こし(可動域途中の痛みと一定角度以降の痛みを分ける評価):株式会社藤井翔悟事務所 内部資料
- 日本疼痛リハビリテーション協会『疼痛治療テンプレート』小冊子(SECTION 2):株式会社藤井翔悟事務所 内部資料
- 関節可動域評価指針:一般社団法人 日本理学療法学会連合 https://www.jspt.or.jp/rom/
- 関節可動域/ROM:厚生労働省 e-ヘルスネット https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/exercise/ys-060.html